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zoom RSS 境界性人格障害闘病記【She Is】 No.001

<<   作成日時 : 2014/08/01 17:38   >>

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ある女性の闘病記。

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境界性人格障害(境界性パーソナリティ障害)については
下記文献(サイト)を参考にして下さい。
【境界性パーソナリティ障害 - Wikipedia】
【境界性人格障害ガイド】

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境界性人格障害闘病記【She Is】 No.001



 彼女は病気だった。


 彼女の心や行動はいつも嵐のようだった。突飛な発言と行動で時には人を面白がらせ、時には人を振り回し困惑させ、自分の心もまた台風のように荒れ、過ぎ去れば台風後の晴天のように清々しいものになる。

 そんな彼女を、大抵の人は咎めなかった。
 彼女はグラフィックデザイナーをやっていたし、手で何かモノを創ったり描いたりするのが好きだったので、「創作活動をする人はそのくらいおかしくて当たり前」だと言われていた。

 彼女自身もまたそう思っていたけれど、時々、「なにか」のきっかけで、ふと自分を責め立てまくる事もあった。
 そんなとき彼女は、自分の「創作活動ができる能力」を呪った。
「こんなものさえなければ、自分はもっと、幸せに、ふつうに暮らせたかもしれないのに」と。
 そう思って一般企業に勤めた事もあったけど、ストレスで入院沙汰になったり、うまく行きそうな時に父親が倒れたりしたので、もうふつうの仕事に就くのは諦めた。

 また、「わたしはこんな風に許されていい筈がない」とも言っていた。
 10年以上前は、誰にも咎められないから、自分で自分に罰を与えるために自傷行為などをしていたようだが、今はもうやめているようだ。
 それでも時々、こんなことを口にする。
「勢いで飛び降りそうになる」と。

 飛び降りる、というのは只の比喩で、そんな風にすべてを自分の後ろに置き去って、とん、と橋から飛び降りるようにすべてを捨て去って自分の存在を消してしまいたいのだそうだ。
 存在を消す方法は何でもいい。本当に橋の上から水の中へダイブしても、過剰服薬でも、道路に飛び出すでも、酒と一緒に飲んではいけないものを一緒に飲むでも。

「格好悪いけど、洗剤を一気飲みするのでもいい。何でもいいのよ」
 笑って言っていたが、きっと本気でやりそうになった事もあるのだろう。
 実際に過剰服薬は3回ほど経験済で、「一度だけ、1時間病院に運ばれるのが遅かったら死んでたと言われたことがあるわ」とあっけらかんと話していた。

 彼女はいつも大体なにがしかのグループに所属しては、それなりに目立った存在になり、ある程度の時間が経過するといつもそこを飛び出していた。
 集団行動が元々好きではないようだが、飛び出して一匹狼になるのかというとそうでもなく、また別のグループの中に存在している。
 そして大多数の人に「あの子ちょっと変わった面白い子だったね」という評価を残して消えていくのだった。

 恋愛に関してもそうだった。ずるずると未練たらしく一人の男を愛するタイプの人間ではあったが、「次」の人が見つかると、前の人の存在など無かった事のように、新しい人に夢中になる。
 ときどき前の人の元へ舞い戻ったり、もうその一晩しか会う事もないだろうという人の所へ行ったり、くるくる表情を変えて飛び移る、飛び回る。そうかと思えば何年も誰とも関係がなかったりもしたので、「相手がいないと死んでしまう」タイプの女ではなかった。


 そんな彼女に、ある日、大切な仲間ができた。
 彼女は「仲間」という言葉を聞いただけで反吐が出そうな人間であったので、未だに「仲間」という単語にはどうもしっくり来ていないようだが、他に日本語で彼らのことをどう表現していいか分からないとのことだったので、ここでも「仲間」と記しておく。

 仲間たちは彼女に新しい感情と知識と経験を次から次へ与えてくれた。
 知らなかった幸福感も教えてくれた。
「わたしがこんな幸せな場所に居られるなんて!」と、仲間内の結婚パーティで心底想ったそうだ。

 彼女にとって友人の結婚式なんて、「自分が如何に駄目かを再確認する場所」でしかなかった。といっても、彼女の友だちは結婚していないか結婚してから知り合った子ばかりだったので、「きっとそういう場所だろう」という妄想だったのだけれど。
「こんなに人の幸福を心からお祝いできて、またそれが続いてほしいと祈れるなんて!」と彼女は言っていた。
 そしてそのとき結婚式を挙げた二人の男女は、後にも彼女の良き理解者となる。

 しかし彼女は、いつものように、またその「グループ」から離れたくなった。
 その時に限らずだが、彼女は大抵、「好きな人たち」に出会うと、自分が邪魔な存在なのではないかと思うようになる。自分がその輪のバランスを乱しているのではないかと。

 大雑把に言ってしまえば、誰か一人が居るか居ないかで、集合体のバランスが大きく乱れることは、ほとんど全くと言っていいほど、無い。
 ちょっと飛び抜けた奴がいても輪は何となく成り立つし、いないならいないで、集合体はまたバランスを取るものだ。

 それでも彼女は思う。「わたしがいなければもっとうまく行くのではないか」と。
 そして、そんなことを考えているつらい状態からも逃げたくなる。
「ここから離れればわたしはもっと楽な気持ちで生きられるのではないか」と。

 そして前と同じように、やっぱり彼女は逃げ出そうとした。
 その矢先、大怪我をして入院し、熱くなっていた頭が冷静になる期間を与えられた。
病院のベッドの上、醒めた頭で彼女は考えた。

「誰からも離れたくない」

 そして初めて周囲の何人かに、相談した。

「みんなから離れようと思ってるけど離れたくない、どうしたらいい?」と。

 我ながらおかしな相談内容だったと思う、と後で彼女は笑っていた。


 仲間のうちの何人かと話をしていて、彼女はふと「異常」に気づいた。
 今まで「異常」だと思わなかったものを、「おかしい」と感じるようになった。
 こころの異常。今まで「性格だ」「自分の意志だ」と信じて疑わなかったもの。それは本当にそうなのか? と思うようになった。

 その時たまたま、アスペルガー障害を持つ経営者の女性を知ったばかりで、その人の言葉がひどく彼女の胸に突き刺さった。

「ずっと生きづらく、なぜ生きづらいのかも分からず苦しかったけど、大人になってから自分の症状を診断されたお陰で、前よりは対策をとったり、自分のやりやすいように出来るようになった」

 もしかして、私も何かの障害なのではないか? と、彼女は初めて疑問に思った。

 10代の頃から、彼女は親に引き連れられて、散々いろいろな心療内科の病院に行っていた。
 大人になってひとりで行く事もあったが、医師はみな口を揃えて「軽度のうつ病です」と言った。
 ただひとつだけ、彼女が女子高校生であった頃に通った病院だけは、
「あなたには境界性人格障害の疑いがある」
 と彼女を診断した。

 医師が「疑い」で止めて診断をしなかった理由は、その時の彼女はまだ若く、夢も希望も将来もあるはずだ、と思われていたからだ。医師はこの診断をすることで、若い彼女が就職しづらくなったり、未来に広がる無限の可能性が大きく狭まることを懸念した。
 彼女自身はそこまで考えておらず、ただ「その診断テストをするのにお金がかかる」と言われたから、「疑い」で止めたのだけれど。

 だけどもうそれから10年以上経っていて、今更「就職しづらくなる」とかいう問題は彼女にとってどうでも良かった。
 そんな事より、もっと生きやすくなりたかった。
 アスペルガー障害を持つ経営者の女性のように、障害に悩みながらも、前に進み、輝きたかった。
 だから彼女はもう一度、「もう二度と行くことはないだろう」と思っていた心療内科のドアを叩いた。

 久しぶりに会った医師は、やはり少しは年を重ねたように見えたけど、前と変わらぬやわらかい物腰のままで目の前に座っていた。
「8年前にも一度だけ来られてますが、覚えてませんか?」
 医師にそう聞かれ、彼女は戸惑った。まったく記憶に無かったからだ。彼女の時計は高校生のままで止まっていた。少なくとも、この病院に関しては。

「今回は、はっきりとした診断をお望みのようですので、もう遠回しな言い方はしません」

「あなたは、パーソナリティ障害です」

「そしてそれは生育期の環境や経験から発症しており、もう元々こころの中に不安の種が存在しているので、うつ病のように一定期間の服薬をすれば治るようなものではありません」

「あなたは、一生つらいです。そしてそれを、がまんしなくてはいけない」

 あまりにもやわらかい物腰で言われるので、絶望的な診断を下されているというのに、彼女はあまりショックを受けなかった。
 もしくは、人間の体は余りにも大きな痛みを受けるとその痛みでショック死しないように痛覚がなくなると聞いたことがあるので、心にもそれに近い事が起きるのかもしれない、などとぼんやり考えていた。

 さらに医師は「でもね」と続けた。

「パーソナリティ障害を持っている人は、なぜか芸術や創作の分野で優れた能力を持っている人が多いのです。これは本当です。そしてあなたは今たまたま、その世界にいらっしゃる。だからその世界で、これからも頑張ってほしいです」

 本当に、今まで自分を評価してくれた沢山の人に申し訳ないが、自分の作品を一度も見たことがない筈のこの医師に「自分の才能」を認められたような気がしたとき、彼女は今までで一番うれしかった、と後に言っている。

「だけど本当につらいと思います。今までもずっとつらかったでしょう。その病気は、家族も恋人も友人も、誰もあなたを助けることができない。あなたは一人で、嵐のような感情をやり過ごさなくてはならない。誰にも当たる事なく、ひとりでじっと耐えるしかない。一に我慢、二に我慢、です。」

「ただ、治ることはないけど、自分の持っている不安の種を、小さく抑えることは出来ます。その方法は、自分で見つけて訓練するしかありません」

 薬や通院が必要なのか、と彼女が訊ねると、医師は「どうしたいですか?」と逆に訊ね返して来た。
 彼女はひたすら悩んで、自分が思っている事を正直に話した。


 病院や薬に頼ると、今まで仲良くしていた人と「違う世界」にいるような錯覚を起こしてしまうと思う。

 自分は今まであらゆる病院で抗うつ剤などの薬を処方されたが、何も効かなかった。たぶん自分自身が、それらは「効かない」と強く思い込んでいるからだ。

 できれば自分は、本などを読んで、自分の病について自分で研究し、訓練して、少しずつ生きやすくなるように努力したい。

 だけどもし、先生が「落ち着くまでは薬や通院が必要」と言うのなら、それに従いたい。


 彼女の言葉をにこにこと頷きながら聞き、医師はその間に何度も「それであなたは、どうしたいですか?」と言っていたのに、最後に突然「診断」を下した。

「私は、あなたには通院も薬も必要ないと思います。今のあなたは、自分の状態をよくわかっていらっしゃる。その調子で、自分と向き合ってがんばってもらいたいです」

 そして更に、にこにこと柔らかく笑いながら続けた。

「私ね、再診の患者さんが来てくれると、うれしいんですよ。皆さん大体、前よりも良くなって来られますから。前より、すごく成長しましたね。すごく良くなってますよ。すごく自分に向き合えるようになりました。そうなるまで、きっと大変な目にいろいろと遭って来たんでしょう。でもね、良くなってますから。これからも、がんばってください。あなたに、通院は必要ないです」

「それから、病気のことを周りの人に言ったり、理解を得る必要もないです。これから結婚相手が現れても、その人にすら言う必要がない。あなたは、気をつけていれば病気でない人と同じように過ごせるので」

 病気のことを隠すのはちょっと嫌だな、と思ったが、彼女は頷いた。


 こうして、彼女の「治らない病」との闘病生活が、始まった。




注釈:
 医師に「周りの人に言うな」と言われたのに、なぜこの闘病記を書くことになっているかと言うと、彼女は「自分の病気」をひけらかして悲劇のヒロインになりたい訳でもなく(もしかしたらそんな気持ちも少しはあるのかもね、などと言っていたが)、単純に「同じ悩みを持っている人の参考になればいいと思ったから」だそうだ。

 自分のように、医師に診断されるほどひどい症状は出ていなくても、「なんとなく生きづらい」人はたくさん居るのかも知れない。病院に行っても簡単な診断テストで「うつ病です」と言われ、効きもしない薬を飲んで、何年も何年も悩んでいる人が。そういう人たちに届いて、何か感じてもらえたら。それが彼女の想いである。

 そんな人たちの参考や何かの救いになる事を、筆者も願ってやまない。

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