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zoom RSS 短編小説【恋に恋し】

<<   作成日時 : 2013/04/08 02:12   >>

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ある男女間の友情の話。

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【恋に恋し】



 若人よ、恋に恋し愛を愛し幸せを追い求めよ
 あたしの心は五年前にもう死んでしまったから。



「結婚したい人がいるんだよね」
 古めかしい喫茶店の椅子に座り、注文を受けた店員が去るやいなや、和司はその言葉を口にした。
 ちょっと予想していない言葉だったので面食らったが、二回ほど瞬きをした後「おめでとう」と言った。
 驚いたのは和司のことが好きだったからとか、そういう事ではない。

 こいつとはもうかれこれ十年くらいの付き合いになる、男友達だ。
 おそらくこいつもあたしの事を「男友達」だと思っている。そういう関係だ。
 物凄くドライに友人関係を続けてきたので、人生の門出の報告をされるとは露とも思わず、面食らったのだ。
「あー、でも、あんたの結婚式には行けそうもない。しばらく仕事が忙しそうだし、それなのに貧乏だから」
 あたしはフリーライターをしている。雑誌だのウェブだのの片隅にどうしようもないコラムをちょこちょこ書いてるだけなので、別に有名なコラムニストという訳でもないし、収入が乏しい。
 それなのに〆切は毎週、いや三日に一回くらいはやってくる。

 今日は和司から「どうしても話したい事がある」と深刻な声色の電話をもらい、こいつがこんな声を出すのはよっぽどの事だな、と思って仕事を中断して出てきたのだ。だから、家に帰ったらまた〆切に追われなければならない。
 だというのに、その内容が結婚の報告? メールで送れよ。メールで。
 あたしが目をキラキラ輝かせて
「えー、おめでとー! 式はいつなのー!?」
 とか手を叩きながら言うような人間じゃない事くらい、長い付き合いなんだから分かるだろ。

「お前は呼んでも来ないだろうから、最初から式に呼ぶ気はなかった」
 他人が聞いたらお互い薄情だな、というような台詞を和司はさらっと言った。
 じゃあ何で今この時、この時間に、呼んだんだ。明日の朝には先方に原稿を送らなければいけないのに!
「じゃあ何、電話で言ってた、『話したい事』って」
「お前さあ、夏海ちゃん知ってるだろ」
「ああ」
 夏海ちゃん。何ヶ月か前に行き付けの飲み屋で会って、お互い「おひとりさま」だったから仲良くなった子だ。
 いちおう連絡先は交換しているが、滅多に連絡は取らない。
 ときどき彼女の方から何か悩みがある時に「ごはん食べに行きませんか?」とメールが来るくらいだ。
「あの子が、オレの結婚相手」
「は?」
 確かに彼女から度々恋愛相談は受けていたが、相手がこの和司だとは知らなかった。
 そういや、相手の名前とか職業とか聞いてなかったしな。相手の年齢くらいか。
 さんじゅういっさい……あたしと同い年じゃないか!
 まあ仮に「かずし」という名前を聞いていたとしても、どこにでもありそうな名前だし、多分こいつの顔が思い浮かぶ事はなかっただろう。

「はーん、夏海ちゃんを悩ませる悪い男ってのはお前だったのか。知ってたら全力で止めたのに」
「そういうこと言うなよ」
「お前の悪行は知り尽くしてるからな、あんな可愛い子をお前なんかに渡す訳にはいかん」
「夏海ちゃんの父親かお前は。そんなこと言ったってもう結婚決まったんだよ、つか子供できたし」
 運ばれてきたコーヒーを大袈裟にずずっと吸いながら、あたしは盛大に溜め息をついた。
「しかもデキ婚かよ! まあ、お前に子供無しで結婚できる甲斐性があるとは思ってなかったけど」
「だからそういう事いうなって」
「まあ、いいんじゃない。この少子化時代、子供を産み育てる夫婦は貴重よ。どうぞすえながくおしあわせに」
「棒読みかよ」
 コーヒーの飲めない和司は紅茶に砂糖をたっぷり入れて、なんだかずっと掻き回していた。飲めよ。

「お前に言いたかったのは、結婚の報告じゃなくて」
「何」
「俺、もうお前に会えなくなると思う。それだけ言いたかった」
「はあ?」
 なんじゃそりゃ。辞世の句か。
「夏海ちゃんも知らなかったんだよ。俺とお前が友達だったって事」
「そりゃ知らないだろうねえ。仕事も全然違うし、共通点がまるで無いし、滅多に連絡取らないし」
「それで、夏海ちゃんもすっごくびっくりしてて」
「はあ」
「もう美南子さんと会わないで、って言ってきたんだ」
 彼女があの大きくて黒目がちな瞳をうるうるさせて、そう言っている顔が目に浮かんだ。
「はあ……」
「俺はただの友達だって言ったんだけど、ホラ俺ら、一回冗談で『付き合ってみるか』とか言った事あったじゃん。その話をしたらさ、何か機嫌悪くなっちゃって」
「ああ、あの、お互い合意のうえ取りやめになった案件ね」
 何でそんな話をするのかまったく分からないが、結婚前にお互いの事を洗いざらい話そう、みたいな事になったんだろう。多分。というか、夏海ちゃんだったらそういうことを言いそうだ。

「美南子さんみたいな素敵な人、自分じゃ敵わないから、いつ和くんが心変わりするか分かんなくて怖いって。だからもう会わないで欲しいって」
「はあ……」
 さっきから壊れたテープレコーダーみたいにこの生返事を繰り返しているが、本当にこれ以外言葉が見つからない。
 和司の方は知らないが、あたしがこんな男と間違いを起こすなんて天地がひっくり返っても有り得ない話である。
 あー、でも、夏海ちゃんにとっては違うんだなー。というかあの子、友情が恋愛になるってよく言ってたもんなあ。
 自分がそうだから、きっと他人もそう見えてしまうんだろう。

「まあ、元々そんなに会ってないじゃん。いちいち宣言するような事でもないんじゃない」
 大体いつも、連絡を取ってきたのはこいつの方だ。
 あたしは自分から連絡を取るのが嫌いなのである。というか、空いた時間は全て仕事と一人の時間(息抜き)に注ぎ込みたいので、友達とどっか行こうとかいう思考回路がまるで働かない。
「いや、でも急に俺から連絡が来なくなったらお前が心配するかと思って」
「自意識過剰だね。一年くらい連絡取ってなかった時もあるでしょ」
「そうだけど、最近は二〜三ヶ月にいっぺんくらいは会ってただろ」
「その連絡が無くなった所で、別にあたしは何ともないわよ。それこそ、あー結婚したのかなーくらいに思うよ」
「いや、もう、いいだろ! 一応。一応だよ」
 そう言って和司は、さんざ掻き混ぜていた紅茶を一気に飲み干した。

 ああ、というか、こいつの方が「別れ」を宣言したかったのかも知れない。
 何だかんだお互いの人生相談もしたしなあ。一緒に飯食ったり酒飲んだりもしたしなあ。
 それなのにひとつも間違いが起きなかったって事は、お互いに「同性の友達」という感覚だったのだろう。

 が、あたしたちはそうだが、夏海ちゃんにとってはそうではないのだ。
 「男」と「女」だから駄目。
 夏海ちゃんは可愛いし良い子だと思うが、「くだらねえ」と思った。
 でも夏海ちゃんに限らず、世間は、この国ではそうだ。
 男と女が二人で並んでいたらカップルだと思う。
 男女の友情は成立しないと云う。
 まあ、成立してない男女が多いし、多数決で何でも決まる国だから、しょうがないんだけど。
 しょうがないけど、ああ、くだらない。
 つーかそんな事であたしを呼ぶな。〆切まで20時間切っただろ!

「とりあえず了解したわ。まあ、あたしから連絡を取る事は今まで通りないから、お元気で。お幸せに」
 あたしはテーブルの脇に置いてあった伝票をとって、席を立った。
 和司も慌てて席を立つ。
「ここの支払いはあたしが。ご祝儀も結婚祝いも贈れる気がしないから」
 和司は「ケチだなー」と言って、いつものように笑った。

 喫茶店を出て、足早に帰っていく和司の背中を見送りながら、ぼんやりと色んなことを思い出していた。

 和司と二人でいる時に、「お前みたいな女友達が一人いて助かってる」と言われたな、とか。
「できればずっとこうやって飲んだり食ったり喋ったりしてたいな。それが何ヶ月に一回でも、何年に一回でもさ」
 そうだ、和司はそう言っていた。
「わたし、美南子さんみたいな人あこがれです! 大好きです!」
 夏海ちゃんの台詞も一緒に思い出した。そんなこと言ってたなあ、そう言えば。
 あたしなんかに憧れるもんじゃないよ、と何度も返したけれども。

 あたしには「この人がいなければ生きていけない」と思うような人はいない。
 話したいと言われれば、時間があれば会いに行くし、必要ないのなら消えて結構。
 あたしの方から必要とするものはもう何もないから。
 あなたたちが必要とするならそこにいるし、必要ないのなら、お望み通り消えて差し上げましょう。

「……仕事すっか」
 家に帰ってコラムを書かなければ。テーマは恋愛・結婚だったっけ? 読者投稿形の。
 なんで恋愛も結婚もする気もないあたしが、そんなもの書いてるんだろう。
 ああまた、「わかるわかる、あたしも悩んでるのよ〜」とかオカマ口調で書かなきゃいけないんだろうなあ。



 若人よ、恋に恋し愛を愛し幸せを追い求めよ
 あたしの心は五年前にもう死んでしまったから。




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