妄想。

アクセスカウンタ

zoom RSS 短編小説【8月15日】

<<   作成日時 : 2009/08/15 02:01   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

あるクラスメイトの話。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

【8月15日】





 なんでいつもそんなつまらなそうな目が出来るんだろう。





 彼女の目はいつ見ても仄暗かった。
 まあ、普通、独りでぼうっとしている時なんかは誰でも生気のない目になりがちかも知れないけど、彼女はそれだけじゃなかった。

 笑っている時も、友達と話している時も、僕と一緒にいる時も常に彼女の目は仄暗かった。

 髪の毛も目も真っ黒だし、マスカラを使わない彼女の睫毛はいつも下向き加減だから、そのせいでそう感じるのかと思っていた。

 でも彼女といるうちに気づいたんだ、どうやらそれは違うってことに。

 詳しい理由は、僕はまだ聞けずじまいだ。





「今日って何の日か知ってる?」

 彼女は唐突にそう聞いてきた。
 窓の外をいつもの俯きがちな目で見つめたまま、僕の方を一度も見ずに。
「……今日?」
 ちなみにここは僕の借りているマンションの部屋な訳だが、僕らは付き合っている訳ではない。
 友達、というのも微妙。
 彼女の目的は僕ではなく、どうやら僕の部屋に置いてある古くさい書籍のようだから。
「……わからないな」
 あまり間を置かず答えた。
 今日が彼女の誕生日だったとしても、僕はそれを忘れて咎められることはない。
 何度も言うが、僕は彼女の彼氏ではないからだ。
「そう。そうね、ふつうはそうね。」
 彼女は何かに独りで納得したように、小さく頷きながらぽつぽつと言葉を吐き出した。そしてそのまま、黙りこくってしまった。
「……気持ち悪いな。答えを教えてよ。問題を出したのなら、解答を出すのが筋ってもんだろう」
 僕はこう言いながら、我ながら自分の“文学青年然とした喋り方”は気持ち悪いな、と思っていた。



「終戦記念日。」


 彼女はまたもこちらを見ずに、呟くようにそう言った。



「……あ」
 そうか。今日は、8月15日だ。
 僕は何しろテレビを一切見ないので、そう云った情報には完全に疎かった。
「あなた、こんな古い本を集めている癖に、そういう事は全然知らないのね。」
 彼女は近くの本棚から茶色い染みの沢山ついた本を一冊取り出して、やっと僕の方を見て、言った。
「そんなことを言われても……。大体それは、戦時中に発売された本でも、戦時中のことを取り扱った本でもないし」
「そういうことを言っているんじゃあないの。昔の本に興味があるのなら、日本の歴史にも興味を……ああ、ごめんなさい、なんでもないわ。」
 彼女は一瞬火がついたようにまくしたてたが、その火はすぐに消えたようで、またそっぽを向いてしまった。
 そして窓の外に目を落とす。

「そこから、何が見えるんだ?」
 何の気無しに、僕は尋ねた。


「……生きている人。」


 彼女はやはり振り向きもせず、答えた。


「64年前の今日、どれだけの人が、この日を喜んだのかしら」
「……さあ。僕には、想像もつかないね」
「……私もよ。」
 彼女は睨みつけるように窓の外を見ていた。何故か、悔しそうな表情に見えた。


「死にたくないと嘆いた人が、沢山いただろうに」

 彼女は、更にぽつぽつと

「私は何をしているのかしら」

 おそらく僕に言っている訳ではないであろう、言葉を

「別に命を断ちたい訳ではないけれど」

 静かに、紡いだ。



「……君は、何がしたいんだ?」
「何も。」
 彼女が振り向いた。
 小さく微笑んでいるような、今すぐ泣きそうな、そんな表情に見えた。
「何もしたくなくて、困っているのよ。」



 彼女はいつものように本を二冊ほど手に取り、「また明日。」と言って僕の部屋を立ち去った。
 そう、彼女は僕のクラスメイトだ。明日も学校で出会うだろう。
 だけどきっと、お互い声を掛ける事はしないだろう。


 僕には何も分からない。
 彼女の目が仄暗い理由も。
 彼女が何を抱え思い悩んでいるかも。
 聞こうとしない。
 聞いても無駄だと思うからだ。
 僕ごときが他人と関わっても、世界は何も変わらないと思うからだ。




 彼女の目は仄暗いが、奥底にゆらゆらと命の灯がゆらめいているのは感じ取れる。
 ほんとうに目が死んでいるのは僕の方かも知れないな、と思った。







* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *



↓小説を気に入って下さったらクリックよろしくお願いします
画像

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
短編小説【8月15日】 妄想。/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる