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zoom RSS 短編小説【少女漫画】

<<   作成日時 : 2007/04/20 01:50   >>

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少女漫画の世界に憧れる、少女の話。

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【少女漫画】




 ああ、何であたしは、こちら側の世界にいるんだろう。
 彼女は「少女漫画」の世界に住んでいるのに。
 好きになって、告白して、付き合って、キスして、いつかセックスして、ケンカして、仲直りして。
 それがずっと続いてゆき、最後には結婚する。
 そう信じている。
 あたしは何故、それが出来ないのだろう。
 妄想でも、いいのに。
 どうか、少女漫画の、世界に。



「俺は少年マンガの方がいいな」
 確かに少女漫画より少年漫画に出てきそうな顔の拓巳は、煙草を吹かしながらそう言った。
 ベッドで、全裸で。
 このシチュエーションが既に少年漫画では有り得ないな、と思った。
「だって少年マンガはシンプルだぜ。敵倒して、強くなって、また更に強い敵倒して、たまに負けて、でもまた強くなって倒して。スポーツでも冒険でも変わんねえ。めんどくせえ恋愛も、しなくていいし。したとしても、決まったヒロインと必ずくっつくしな」
「でも少年漫画って、セックスもないよ?」
 あたしは彼が、何よりもセックスが好きなことを知っていた。
「まあ、セックスは、舞台裏で」
「何ソレ。バッカだねえ」
 あはは、と笑いながら、彼の煙草を1本もらって火をつける。
 もちろん、あたしも全裸で。
 煙草に口を付ける前に、彼にキスされた。
「たばこくさい」
「うるせー」
 もう一度キスしてくる。今度は、もっと深いキス。
「拓巳は、あたしのこと好きなの?」
「なんで」
「頼みもしないのにキスしてくるから」
 今度は拓巳が、あははと笑った。
「嫌いじゃないよ」
 お決まりの台詞だ。以前はムカついていたけど、もう慣れてしまった。
 いいんだ。それでも拓巳は、あたしを求めてくれるのだから。



「そんなの、ゼッタイおかしいよ」
 昼休みの教室で。
 少女漫画の世界に住む理恵は、あたしの瞳をまっすぐ見つめながら、キッパリとそう言った。
 理恵はいつぞや偶然、あたしと拓巳が一緒にいるところを見たらしく、「こないだの人、彼氏?」「どこまでいってるの?」などとお弁当を食べている間中ずうっと訊いてきたので、めんどくさくなって大体のことを話したのだ。
 で、出てきた台詞が、ソレだ。
 あたしは理恵に借りた爪磨きで爪を整えながら、うーん、と生返事をした。
「だって、二人は付き合ってないんでしょ?」
「うん。付き合ってない」
「真美、利用されてるんだよ。そんな男と一緒にいない方がいいよ」
 どうして少女漫画の世界に住む彼女たちは、“利用”という言葉を使うのが好きなのだろう。しかも、他人の世界にだけ。
 自分の世界には、絶対にそんな二文字は有り得ないのだ。
 羨ましい脳みそをしている、と思う。
「あたしの事はいいよ。理恵はどうなの」
「んー。ちょっと、ケンカ中。もう4日くらい連絡とってないよ」
「ミカが合コンするって言ってたよ」
「えー、何言ってんの、行かないよぉ。だって、ゼッタイ別れないもん」
 また出た。何故この子たちは、“ゼッタイ”という言葉も好きなのだろう。
 

 この世に、絶対と言う言葉はない。
 少なくとも、あたしの住む世界には。

 あたしの前の彼氏は、あたしに借金を全部背負わせて、蒸発した。
「愛してるよ。ごめん。」という、言葉を残して。

「愛してる」が免罪符になると信じているなんて、馬鹿な男だと思う。
 そして、彼を愛したあたしは、もっと馬鹿だ。

 十七歳にして借金苦。
 借金そのものは、ママが返してくれた。
「あたしに返すのは大人になってからでいいわ」とママは言った。

 そしてあたしは、その彼と同じ年齢の、拓巳を愛した。

 所詮そういうのが、あたしの、世界だ。



『ウチ来て』
 学校帰り、携帯が鳴って出ると、第一声がそれだった。
 もちろん、声の主は拓巳だ。
「今日バイトだよ」
『終わってからでいい。終わったらすぐ来て』
「何かあったの?」
『風邪ひいて寂しい』
「そっか。わかった」
 プツ。ツーツーツー。
 淡白な受け答え。なるべくそれを心がけている。
 電話がかかってきて嬉しいという気持ちが、バレないように。
 本当は凄く拓巳が好きで夢中だということが、バレないように。
 バレてしまったら、きっと、また捨てられるだろう。
 あの彼のように。


 ああやっぱり、あたしの世界は、少女漫画じゃない。




 セックスをしておかゆを作って一緒に寝て翌朝登校すると、理恵が不細工な泣き顔で駆け寄ってきた。
「まみ〜〜〜〜どうしよう、もうあたしぃ、生きていけない〜〜〜〜」
「ど、どうしたの?」
「あのね〜、あっくんね〜〜、ホントはずっと、すっ、好きなひとが、いたんだってぇ〜〜。でもぉっ、ひっく、その人がふりむいてくれなくて、さみしくて、あた、あたしと、つきあってたんだってぇ〜〜」
「そ、そう……で、何で理恵は泣いてるの」
 分かりきっていたが、あえて訊いてみた。
「なんかぁ、そっ、その女が、あっくんと、つきあうって言ったらしくってぇ、ごめんけど、別れたいって、えっ、えっ、えっ、あ、あたし、ええ〜〜〜〜ん」
 教室中に響き渡るダミ声で、理恵は大泣きした。
 理恵に泣きつかれながら、あたしは以前理恵が言っていたのろけを思い出していた。
「愛してる」と何度も言われたとか、なんか、そういうの。

「……うん、理恵、うん……」
 あたしは何と言っていいのか分からないまま、変な相づちを打って理恵の頭を撫でていた。
 笑いをこらえながら。


 妄想の、少女漫画の世界。

 それが壊れたくらいで、生きていけないと叫ぶ少女。



 ああ、あたし別に、こっちの世界でいっか。
 そう思った。


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