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zoom RSS 短編小説【夏休み】

<<   作成日時 : 2007/04/13 00:38   >>

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ある中学時代の思い出。

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【夏休み】




「わたし、あなたのメガネ、好きよ」

 中学三年生の、夏休みの前日だった。

 クラスでいちばん綺麗と噂されていて、クラスでいちばん成績のいい愛川さんに、下駄箱の前で、僕は突然そう言われたのだった。

 ただの冴えない黒縁メガネ男であった僕は、愛河さんはおろかクラスメイトの他の女子ともまともに話した事がないという“ていたらく”で、当然、愛川さんの言葉にまともな返事をする事もできなかった。

「ばいばい。」

 永遠のような一瞬の間を置いた後、愛川さんはにっこりとそう言って、校門の方へ駆けていった。
 きつく揺った長い三つ編みが、彼女を追いかけるように、揺れていた。

 はっきり言ってそんな髪型をしていたのは当時愛川さんだけだったが、僕は、他の誰よりも、愛川さんが一番三つ編みが似合うと思っていた。




 五年経った今でも、よく分からない。
 何故あのとき愛川さんは、僕に声をかけたのだろう。

「あなたのメガネ」って、どういう意味だったんだろう。


 僕はいつも、こうして夏がやって来ると、あの日の愛川さんの言葉を思い出す。
 そして寒くなると、だんだん忘れてゆく。
 そんな事を、もう五年も繰り返していた。





 冴えない僕の夏休みは、当然のようにいつも冴えないものであったが、その年の夏休みだけは、違った。
 僕は宿題の合間にふと、愛川さんのあの言葉を思い出し、青く透き通った空を見上げる度に、彼女の揺れる三つ編みを思い出した。
 それだけで、なんだかとても、幸せだった。

 それ以外は以前とまったく変わらない夏休みで、というよりも受験勉強がある分いつもより憂鬱だった筈なのだけれども、僕はなんだか、幸せだった。








 夏休みが終わって登校すると、彼女は、もうどこにもいなかった。





 代わりに彼女の机には、ちんまりと、綺麗な花瓶が置いてあった。





 僕は何故そうなったのか、未だに、よく分からないでいる。



 その日の朝礼で先生が、「残念なお話があります」と言ったことだけは、覚えている。









 朝礼が終わったあと、




 教室では、




 彼女の何十倍も不細工な女生徒たちが、奇声を上げて、馬鹿笑いをしながらはしゃいでいた。



 男子生徒たちは、日に焼けた肌を自慢し合ったり、“掘り出し物”と名のついたビデオテープを貸し合ったりしていた。




 冴えない僕は、

 窓際の、僕の三つ前の席に置いてある花瓶を見ながら、本を読んでるフリをして、





 彼女のことを、



 自分のことを、



 いのちのことを、



 人生のことを、






 考えた。








 でも結局、僕には、判らない事だらけだった。





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