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zoom RSS 短編小説【シャッター】

  作成日時 : 2007/03/27 00:53   >>

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ある恋人達の話。

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【シャッター】


 僕は何度もシャッターを切る。
 きらきら光る川辺の前で。何度も何度も。
「そんなに撮ったって、何も変わらないよ」と君は言うけど、それは違う。
 毎秒、毎秒、1秒前の君とは違う君が、そこにいる。
 僕はそれを、ひとつも逃したくないんだ。


「あ、フィルムなくなっちゃった」
「だから、撮りすぎだってば」
 あはは、と笑いながら、彼女は振り返って言った。
 まだ少し寒い3月の川辺は、風が強い。風にあおられる髪を押さえながら、彼女は僕のそばに来る。
 少し茶色い、彼女の長い髪が陽に透けるのを見るたび、僕はいつも少しだけせつなくなる。



 フィルムが無くなっても、僕には、この両目がある。
 シャッターを切るように、僕はまばたきを繰り返す。
 君を忘れないように。



 彼女は歩いて来た勢いのまま、僕の体に両腕を回し、ぽすん、と胸に顔をうずめた。
「さむいね」
 何故かその言葉が、すごく寂しく感じた。
「うん」
 僕は静かに、彼女の背中に手を回し、ぼんやりと水面を見つめた。




 死にたがりの彼女よりも先に、僕が天国へ行くかもしれないという事を知ったら、君は、どうなるんだろう?


 どのくらい泣くのかな。
 どのくらい、怒るのかな。


 天国に、写真は持って行けるのかな。フィルムは? 無理だろうな。
 こんだけ毎日一緒にいたのだから、カメラの亡霊とかが、僕と一緒に天国へ昇ってくれればいいのに。そして亡霊は僕の好きな時に、今まで撮った写真を見せてくれるんだ。
 天国なんだから、そのくらいのメルヘンがあったっていいだろ?



「なんでだまってるの?」
 腕の中から、くぐもった声が聞こえた。まるで薄いガラス越しに喋ってるみたいだった。
 現世の声って、天国に行ったらこんな風に聞こえるのかな、なんてぼんやり考える。
「……君のこと好きだなあ、って考えてた」
「……ふふ」
 生徒のとんちんかんな答えに笑う優しい先生みたいに、彼女は笑った。




 知ってる?
 天国の門をくぐったら、現世での記憶を忘れちゃうんだって。
 忘れたくはないなあ。




 だから僕は何度もシャッターを切る。
 カメラの。瞼の。
 心に焼き付けるように。
 魂に焼き付けるように。


 君を、忘れないように。



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